不動産関連の、主にREITに関する資料を見ていて、信託受益権という言葉が出てきました。
不動産投資歴も10年以上になり、それなりに知識はあるはずなのですが、いまいち信託受益権と所有権の違いが分かりません。
今回はこの信託受益権と所有権の違いについて調べてみました。
実はこれ、調べてみるとなかなか面白い話だったんですよね。
信託受益権売買と不動産売買では登場人物が異なる
通常の不動産売買であれば、登場人物は不動産を売る【売主】と不動産を買う【買主】の二人だけです。
売主は買主に不動産(の所有権)をあげる代わりに、
買主はその代金を売主に支払います。
至ってシンプルで分かりやすい構図ですね。
それに対して信託受益権の売買の場合はというと、
登場人物に「信託銀行」などの信託会社が追加になり、登場人物は3人になります。
売主はまず信託銀行などに不動産を預けます。(①)
その代わりに信託銀行は信託受益権を渡します。(②)
これは家賃収入などの収益を受け取る権利ですね。
次に売主は買主に信託銀行から発行された信託受益権を売ります。(③)
それに対して、買主は信託受益権の代金を売主に支払う、ということです。
一般的な不動産の売買とは登場人物が違い、売買の前に信託銀行などの信託会社が入る、ということですね。
関連記事:不動産売買契約、決済当日の流れ!実際に購入してみた
信託受益権売買のメリットは税金!所有権売買と何が違う?
信託受益権売買の一番のメリットは税金にあります。
一般的な不動産の所有権売買と何が違うのか、簡単にまとめてみました。
信託受益権売買 | 一般的な不動産売買 | |
---|---|---|
商品 | 金融商品(みなし有価証券) | 不動産 |
関係する法律 | 金融商品取引法 金融商品の販売等に関する法律など | 宅地建物取引法 |
免許 | 第2種金融商品取引業 | 宅地建物取引法 |
不動産取得税 | かからない | かかる |
登録免許税 | かかる | かかる |
印紙税 | かかる(売買契約書:200円) | かかる |
流動性 | より低い | 低い |
不動産REITによくあるような大型のオフィスビルなどになると、物件規模が大きく、
- 不動産取得税
- 登録免許税
- 印紙税
といった税金の金額も大きなものになります。
ですが、これが信託受益権売買になると、扱いが不動産ではなく金融商品ということになるので、
不動産取得税もかかりませんし、登録免許税や印紙税が相当安くなるんですね。
とても大きな規模の不動産の場合は、信託受益権売買の方が支払う税金が少なく済んで良いということです。
関連記事:不動産を売却した時の税金!どんなものがどれくらいかかるの?
信託受益権売買のデメリットは?
ただ、信託銀行などに信託報酬を支払わなければならないというのは信託受益権売買のデメリットでもあります。
登場人物が一人増えている分、そこでも動くお金があるということですね。
また、株や実物の不動産に比べると、不動産信託受益権はさらに流動性が低いというのもデメリットの一つです。
買い手がなかなか見つからないのと、信託受益権の売買には受託者(信託銀行など)の事前承諾が必要なのです。
さらに、信託契約には期間が設けてあり、その期間中受益者(不動産を預けている人)からの解除は原則できません。
また、信託受益権を現物の不動産に戻す、つまり信託を解除する際には、
通常通り、
- 不動産取得税
- 登録免許税
- 印紙税
がかかってきます。
税金を抑えられるというメリットがあるのが信託受益権売買でしたが、
結局は税金が免除になるわけではなく、大きな不動産にはいつか必ず大きな税金がかかってくるということになります。
これらを総合すると、信託受益権売買は、実物の不動産売買とは違い、ずっと保有していくための売買ではないということになります。
それよりも、中長期で売却することを視野にいれ、税金を抑えつつインカムゲインを重視する売買、ということなのです。
関連記事:不動産投資による税金対策、どんな仕組み?
信託受益権が絡む売買の色々なパターン
信託受益売買にはい色々なパターンがあります。
①信託受益権が売却された後も信託が継続されるパターン
すでに設定されている信託受益権を売却し、買主はその後も信託を継続するパターン。
これは信託受益権の売買になるので、不動産取得税は課税されません。
また、受益者変更登記の登録免許税も一件1000円。
実物の不動産取引に比べて税金がかなり割安になります。
②信託受益権が売却された後に信託解除するパターン
すでに設定されている信託受益権を売却し、買主は信託受益権の移転と同時に信託契約を解除します。
買主は信託銀行などから実物不動産の返還を受けて、以降は実物不動産として保有します。
この場合は信託解除の時点で買主に実物不動産の所有権移転に係る登録免許税と不動産取得税が課税されます。
③買主が決済前に不動産を信託し、その信託受益権を買主に売却するパターン
最初は実物不動産だったものを、決済の前に信託会社に信託し、
その信託受益権を買主に売却するというやり方です。
実務上はまず売主と買主の間で不動産売買契約を締結し、
その後信託を行って、信託受益権売買契約を締結します。
信託受益権売買契約を締結したタイミングで不動産売買契約が解除されます。
※最初から売主・買主の間で信託受益権売買契約を締結する場合もあります。
対象不動産が信託銀行の受託要件に適合しない場合、信託契約が締結できない、ということもあります。
④信託契約を解除して実物不動産を売却するパターン
売主が信託していた不動産を信託解除し実物不動産に戻して、
その上で所有権を買主に売却する、というパターンもあります。
この場合は実際には実物不動産の売買と同じですので、不動産取得税と所有権移転に係る登録免許税が課税されます。
不動産REITを検討している方や所有している方にとっては面白い話なのではないでしょうか。
私も勉強になりました。