これからもどんどん高齢者が増えていくことが予想される日本の社会では、現在高齢者の4人に1人が認知症またはその予備軍と言われています。
高齢者の増加に伴いこの数はさらに増えていくことが予想されます。
認知症になってしまった高齢者を家族に持つ人が悩むのが、不動産などの財産をどうするかという問題です。
今回は親が認知症になってしまった場合、親の持っている不動産はどのように扱えばいいのか?売却することはできるのか?、といったことについて解説していきたいと思います。
認知症の場合、売却はできない
認知症にも程度があるかとは思いますが、「意思能力」が無くなっている場合は不動産を売却することができません。
意思能力というのは実は法律用語で、自分の行為によってどのような法律的な結果が生じるかを判断することができる能力のことを指します。
つまり、不動産を売却することによって、その不動産の権利が買主に移転し、売却金を受け取ることができる、ということを売主が認識できない状況にある場合は売買契約を例え結んだとしても契約は無効になる、ということです。
もし軽度の認知症でも、この「意思能力」があると判断されるのであれば、不動産を売却することはできます。
ちなみにアルツハイマー型認知症の場合は、中程度だと無効となっている判例が多いです。
どの時点で判断能力があるのかどうか、ということが決められるわけではなく、
問題となる場面ごとに判断されるので、もし意思能力の有無が裁判で争われる場合は
- 行為・契約当時の本人の心身の状態、病状
- 問題となる行為・契約の性質、内容、複雑性
- 本人に与える財産上の損得の程度
- 契約に至った動機・経緯
- 当事者間の人的関係
- 契約時の状況
といった基準を元に、裁判所にて判断されることになります。
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代理で不動産を売却することができるケース
判断能力が十分であれば、入院中などでも代理で売却を行うことができます。
身体的な能力に問題があっても、判断能力がしっかりしていれば契約を行うことはできるんですね。
そのため委任状などを準備して、子供などが代理人となり、不動産売却の手続きを行うことは可能です。
ただし、前述の通り、重度の認知症で判断能力がないと思われる状態の場合は、委任状を用意しても代理で不動産を売却することはできません。
意思能力がない認知症患者は法的に有効な代理人を立てることはできないのです。
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成年後見制度を使って売却
認知症患者の人が所有する不動産を売却するために使える制度に成年後見制度という制度があります。
成年後見制度とは
成年後見制度とは、認知症や知的障害などで判断能力が十分でない人の代わりに、成年後見人と呼ばれる後見人が契約を結んだり財産の管理などを行って支援することができる制度です。
成年後見制度には法定後見制度と任意後見制度の2種類があり、
判断能力が十分にないと思われる重度の認知症の場合は法定後見制度を使います。
法定後見人は裁判所によって選ばれる
認知症がある程度進んでしまってから本人が成年後見人を選ぶのは難しいので、成年後見人は家庭裁判所によって選出されます。
ちなみに認知症になる前の任意後見制度であれば本人が成年後見人を選ぶことができます。
成年後見人制度には3種類の種類があり、それぞれ後見人に与えられる権限が異なりますので、本人がどれくらい判断力があるのか、ということによって利用する内容が変わります。
成年後見人の種類は以下です。
- 後見…判断能力が全くない人を保護する
- 補佐…判断能力が著しく不十分な人を保護する
- 補助…判断能力が不十分な人を保護する
法定後見人は家庭裁判所が選ぶことになりますが、候補として親族が立候補していても、その人が選ばれるとは限らず、また親族が選ばれなかった時に不服申し立てなどはできません。
最近は弁護士や司法書士、社会福祉士や福祉関係の法人など、法定後見人になる人は専門職である人が多くなっています。
親族間で争いがあったり、高齢の親族しかいない、などの場合はこのケースが多く、全体の7割近くがこのケースに該当します。
法定後見人は本人との利害関係を考慮して、最もふさわしい方が選ばれ、
場合によっては複数の人が選ばれる場合もあります。
法定後見人にできること
法定後見人にできることは「本人の利益になること」に限られています。
不動産の売却も、売却金を本人の生活費や医療費に充てる分には認められる可能性が高いですが、
後見人の事業のためなどに売却しようとすれば認められない可能性もあります。
法定後見人を利用する流れ
法定後見人選定から不動産売却までの流れとしては以下のようになります。
- 本人の所在地を管轄する家庭裁判所に「成年後見制度開始」の審判を申し立てる
- 家庭裁判所から依頼された医師が本人の意思能力を評価し、診断書を作成
※家庭裁判所が医師による鑑定が必要と判断した場合、医師への鑑定料(7~9万円)が必要になる場合も- 後見人の選定、審判の確定
- 不動産会社と売買契約、買主を探す
- 本人に代わり、成年後見人が買主と売買契約を結ぶ
- 家庭裁判所の許可
※売却した資金の使い道など、明確な記載が必要- 家庭裁判所からの許可後、売買代金の精算、所有権移転の登記が行われる
家庭裁判所に申し立てをするためにかかってくる費用は合わせて1万円弱くらいですが、必要な場合は医師などによる鑑定が行われるので、その分が加算され、10万円前後となります。
鑑定が必要な人は全体の1割程度です。
もし裁判所への手続きを司法書士や弁護士に依頼する場合は別途費用がかかるのと、
法定後見人として弁護士や司法書士が選ばれた場合は本人の財産の中から報酬を支払うのが一般的です。
関連記事:相続する不動産に抵当権が付いていたらどうする?注意すべきことは?
認知症発症前の準備が大切
親がもし認知症になってしまったら、なるべく早めに不動産の扱いをどうするかを決めた方がよいということがよくわかったかと思います。
認知症が重度になってしまうと法定後見人制度を使うしかなくなってしまいますが、それにも労力とお金がかかります。
本当は認知症になる前に、相続をどうするか、不動産を今後どうするのか、ということを家族で話し合っておけるのが一番いいですよね。
これからますますこういった問題は増えていくと思いますので、早め早めに家族で話し合うようにしましょう。