賃貸契約において、家賃の滞納があったり、いくつかの条件が重なった時に「物件を明け渡した」とみなす家賃保証会社の契約条項が違法かどうかが争われた裁判で、
最高さに板書が「消費者の利益を一方的にがいするものだ」と指摘し、条項の使用禁止を命じる判決を言い渡しました。
詳しくはNHKのNEWS WEBに賃貸契約での“追い出し条項” 初の使用禁止の判断 最高裁という記事が載っています。
争点の一つが追い出し条項と呼ばれる条項なのですが、
この最高裁の判決によって、今後不動産賃貸業にどのような影響が出てくるのか、ということも今回は一緒に考えていきたいと思います。
追い出し条項はどんな内容だった?
「追い出し」という言葉を聞くとなんだか入居者側に立った言い方で、オーナーを悪者にするような言葉にも聞こえてしまう気がして、なんとなく私は釈然としませんが笑
要は家賃滞納があって、連絡もつかずという状況が続いてしまった場合、オーナーとしては家賃が回収できないのに残地物も撤去できない、つまり新しく入居付けをすることもできない、という状況でかなり困ったことになりますよね。
そういった状況を避けるために家賃保証会社が設けた条項でした。
オーナーもビジネスとして不動産投資をしているわけですから、稼働しないお部屋がずっと放置されているのに何もできない、というのは困ります。
海外であれば追い出しも当たり前ですが、日本では借主を手厚く保護するような姿勢の法律になっていますね。(もちろんそのお陰で住む場所を失う人が抑えられており、引いてはそれが社会の安全や公衆衛生の向上に繋がっているとも言えるので、否定する気持ちはありません)
具体的には家賃保証会社の「フォーシーズ」という会社が賃貸借契約書に用いていた条項で、
以下の4つの要件を満たす場合、保証会社は借主の明示的な異議がない限り物件の明渡しがあったものとみなすことができる、というものです。
「明渡し」ですので家財などの残地物の撤去も可能になるとしていました。
1.家賃を2カ月分以上滞納したこと
2.合理的な手段を尽くしても借主と連絡がとれないこと
3.電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から本件建物を相当期間利用していないものと認められること
4.本件建物を再び占有使用しない借主の意思が客観的に看取できる事情が存すること
1審の大阪地裁判決(2019年6月)では違法、
2審の大阪高裁判決(2021年3月)では一転して適法、
そして今回2022年12月12日に最高裁で違法・無効という判決となっていました。
判決の理由は以下の通りです。
・この条項によれば(賃貸借契約の当事者ではない)保証会社の一存で物件の使用が制限されることになってしまう
・4要件を満たすとされた場合、賃貸借契約が終了していない(借主が明渡義務を負っていない)のに、法的手続によることなく明渡しが実現されることになり著しく不当である
簡単にいうと「明け渡す義務もないし、法的な手続きもとられていないのに明け渡しと同じ状態になるのは著しく不当だ」という内容になります。
関連記事:家賃を滞納された時に対応してくれる保証会社の仕組み
もう一つの争点に「無催告解除条項」があった
本件では追い出し条項の他にもう一つ争点になった条項がありました。
それが無催告解除条項というもので、これは、借主が賃料などの支払いを3ヶ月分以上怠ったときに、保証会社が無催告で賃貸借契約を解除することができるという内容の条項でした。
こちら1審・2審ともに適法と判断されていたものの、最高裁ではこれが覆り、違法・無効という判断になっています。
内容は以下の通りです。
・条項を文字どおりに解釈すれば、保証会社が代わりに家賃を支払った場合でも解除が認められてしまうこと
・(賃貸借契約の当事者ではない)保証会社の一存で解除が行われること
・借主が負う不利益を考えれば、家賃滞納の場合であっても催告を行う必要性は大きいといえること
関連記事:アパート経営をする時に家賃保証会社はどう選べばいい?
今回牽制されたのは貸主ではなく保証会社
追い出し条項が違法!というニュースの見出しを見て、「また貸し出しが難しくなってしまうかな」と思いましたが、
今回最高裁が重視したのは「家賃保証会社が法的手続きをとらずに契約解除をした」という部分だったようです。
「貸主によるもの」ではなく「保証会社によるもの」であったことが重視されているんですね。
最近は高齢者の単身入居者や、生活保護の方、外国人の方の受け入れについて悩んでいるオーナーさんも多く、
家賃保証会社を利用するシーンがさらに多くなっていっていることかと思います。
私も生活保護の方や外国人の方の受け入れを行う時、必ず家賃保証会社さんを通していただくようお願いしています。
今のところ特に大きなトラブルになったことはないですが、家賃保証会社も対入居者において強く出られるわけではなく、限界があるのだなというのは今回のニュースでよくわかりました。
保証会社を通したから大丈夫、ではなく、
家賃の滞納があった時に実際どのように動いたら良いのか、ということはオーナーもしっかり把握しておいた方が良いですね。
ちなみに家賃滞納があった際は、オーナー側で法的な手続きをとり、それでも滞納が続いた場合に明け渡しに持っていくことは可能です。
弁護士に依頼して明渡請求訴訟、という形になるので時間もお金もかかることになりますが、オーナーとしてやれることはやはり法的手続きに則って進める、というやり方ですね。
どちらにせよ、今回の判決によって貸主はよりお部屋を貸しにくく、借主はよりお部屋を借りにくくなったように思います。
保証会社の保証料金もこれから上がっていく可能性もあるかもしれないですね。
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