入居者の退去があったとき、新しい入居者を募集するために、お部屋の原状回復をすることになると思いますが、基本的に通常損耗の部分に関しては入居者負担にすることができず、オーナー持ちになるのが一般的です。
しかし賃貸借契約に特約をつけることによって、通常損耗の部分の補修費用も入居者負担とすることはできないのでしょうか?
今回は通常損耗の補修費用について、解説していきたいと思います。
通常損耗の扱い
賃貸借契約における通常損耗とは、社会通念上通常の方法によりしようすることによって生じる損耗です。
簡単に言えば、「一般的な使い方をしていてもついてしまうキズや汚れなどの損耗」ということですね。
家やお部屋というものは年月とともに古くなっていき、価値が落ちていくものです。
賃貸借契約において、賃借人である入居者は目的物(お部屋)を返還する際に、目的物を原状に復して貸主(オーナー)に返還しなければならない、ということに法律上なっています。
そのため原状回復義務は入居者側に課せられた義務なのですが、上述した「一般的な使い方の中で起きた損耗」に関しては、原状回復義務は課せられていません。
民法上では、通常損耗は原状回復の範囲外であり、補修費用は賃貸人(オーナー)が負担する、という原則になっています。
通常損耗修補特約
近年、賃貸借契約書に以下のような文言を記載しているケースがあります。
「第○条(原状回復義務)
賃借人は、通常減耗であっても、賃借人の費用で原状に復したうえで、賃貸人の立会を求め、本件建物の引渡しをしなければならない。」
通常であれば通常損耗の範囲のものは原状回復費用を入居者に請求することはできませんが、特約を追記することによって、通常損耗の範囲も費用を請求する、という形にしているわけですね。
これを通常損耗修補特約と呼ぶことがあります。
こういった特約は有効なのでしょうか?
最高裁のこれまでの判例を見てみると、通常損耗における原状回復義務を賃借人(入居者)に負わせるためには、通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されていることが必要、としています。
契約書に明記されていない場合は、賃貸人(オーナー、もしくはオーナーの代理人となる管理会社の担当者)が口頭で説明をした上で、その旨の明確に賃借人(入居者)が理解し、内容に合意していることが必要、となっています。(最高裁平成17年12月16日判例時報1921号61頁)
また、特約の内容の合理性によっては無効となる、という判例もあります。(民法606条、608条、消費者契約法10条
大阪高裁平成16年12月17日)
まとめると、こういった特約をつけている場合は多く、全くの無効になる、ということはあまりなくて、むしろ有効となる傾向が強いと言えます。
ただし、以下の条件が求められます。
- 具体的な修繕の範囲が契約書に明記されている
- しっかりと内容の説明を行われた
- 賃借人(入居者)が十分に内容を理解し、合意した
3つ目の賃借人が十分に内容を理解し、合意した、というのはオーナー側では判断が難しいところになりますよね。
例えば印字された定型の契約書を読み合わせもせずサインしただけ、というような場合は特約が無効になる可能性があります。
契約書に書かれた特約の内容が具体的で、さらに契約書上で線を引いたり記しをつけるなど強調が成されていたりすると、有効となる傾向が強いです。
また通常損耗修補特約の合理性ですが、あまりにも無茶な内容だと無効になる可能性が高い、ということです。
例えば
- 短期間での退去なのにクロスや床など全面張り替え
- 築古物件なのに新築同様の状態にするためのリフォームをする
などといったところです。
曖昧な表現が多くはなってしまいますが、「常識の範囲内で」という感じですかね。
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鍵の交換について
鍵の交換費用についても入居者に請求することができるのでしょうか?
通常、鍵の交換は原状回復には含まれません。
ただし鍵の紛失については原状回復の一部に含まれます。
賃貸契約において、鍵を複数本賃借人(入居者)に渡している場合、必ず貸した本数を全て揃えて返却する必要があります。
しかし複数本渡していて、そのうちの1本、もしくはいくつかを紛失しているケースがあります。
この場合は鍵の交換費用は賃借人とオーナーで分け合う、という判断になることが多いです。
鍵交換を原状回復の一環として賃借人負担とする特約もよくありますが、これは無効になる傾向が多いです。
実務上の話をすれば、集合住宅を取り扱っているオーナーは、退去のたびに鍵交換をしている人は少ないです。
入退去のたびに鍵交換をしていたら、大きなコストになってしまいますからね。
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